日本の米事情と新米の季節を迎えて
―備蓄米放出の裏で問われる“米づくり”の未来―


㈱アビオス 田中良彦
Tanaka Yoshihiko
 今年も新米の季節を迎えました。炊き立ての香りに秋の実りを感じる一方で、米価の高騰が続いています。背景には、猛暑や水不足による全国的な減収、肥料や燃料価格の上昇など複数の要因があります。

 一時、政府は「備蓄米の市場放出」を行い、価格の急上昇を抑える政策を取りました。表向きは消費者の負担軽減でしたが、その裏で農家には“収入が増えない構造”が残ったままです。価格を下げれば消費者にはやさしく映っても、生産者の利益は薄く、担い手不足に拍車をかける結果にもなりました。

 高値の背景には農家の減少と生産量の縮小があります。外食や輸出需要が戻る中で「作る人」が減れば米は高くなる——これは自然の流れです。しかし、高値=農家の儲けではありません。資材費・燃料費・人件費の上昇により、「売値が上がっても手元に残らない」という声が現場では多く聞かれます。

 一方で生産者も、補助金に頼るだけではなく知恵と工夫を重ねています。微生物資材による土づくりや「BS資材(バイオスティミュラント)」の活用など、化学肥料に依存せず植物本来の力を引き出す取り組みが広がっています。さらにコストを抑えるため、水田ではない畑での直播き栽培に挑戦する農家や、人手不足を補うために大規模化・機械化を進める動きも出ています。補助金に依存するのではなく、自ら新しい米づくりの形を模索しているのです。

 日本人にとって米は主食であり文化そのもの。安さを求めるだけでなく、正当に生産者を支える仕組みを考える時期に来ています。備蓄米の放出で一時的に価格を抑える政策より、農業を“職業として続けられる仕組み”こそが真の食料安全保障につながるのではないでしょうか。

 そしてこれは農業に限った話ではありません。どの業界も大きな変革の時代を迎えています。現場で汗を流す人々の努力と知恵こそが、未来を支える力になる——そう信じています。さらに近い将来、AIやロボットの導入も加わり、日本の米づくりは新たな段階へと進んでいくことでしょう。