マイオアシス
 最近の話。母と二人で住んでいる。ある日晩御飯を食べた後、一階リビングで横になり、テレビをぼーっと見ながらウトウトし始めていた。23時過ぎ?二階から何度か呼ぶ声が聞こえた。力無さげな呼び方だった。ちょっとしてドアが開き、私に何か言ったが、半分眠りかけていたため、(朝早かったので)要件も聞かずに眠ってしまった。
 明け方目覚め、自室で二度寝しようと二階に上がると、ドアを開けたまま母はベッドの縁にもたれ、「(私の名前)、腕が痛い」と言ったので、「どうした?」と訊くと、隣の部屋で脚立に上り(何か作業をしていた)、バランスを崩し一メートル程(は無いと思うが)落下。横にあったハンガーラックごと衣類の上に雪崩れかかった(絨毯の部屋で良かった)が、その時右肩を痛め、右腕が上がらないと言う。「えっ、どっか行きたい病院あると?」と訊いたら、「○○○○センター」と大病院の名前を出した。朝起きたらそこに連れて行こうと思い、その病院の診療開始時間等一通り調べた。
 暫くして一階に下り、「まだ痛い?」に「痛くて眠れんやった」。腕が痛くて動けないというので、「救急車呼ぼうか?」と訊くとNo。その大病院は紹介状が無いと受診出来ない、また家から近い方が良いと思い、車で15分くらいの(大)病院に予約の電話をしてみた。ここも紹介状が必要だという。
 掛かり付けはあったが、直接行っても無下に断ることはないだろう(紹介状が無い場合は別途お金が必要とHPに書いてあった)と思い、何とか着替えさせ、出発。9時前に病院に着いた。受付に行くと、紹介状の事は言われたが、珍しく母が今どれほどの痛みで辛いかを訴えた。別途料金はかかったが、本日外来の患者を診療する時間が取れるか確認してくれた。
 受付アンケートに個人情報と症状を書き込み、受付係とのやり取りの後10分位で可能との連絡があり、二階へ案内された。歩くのがきついというので車椅子をお借りし、形成外科の受付に行った。診察の前に一人の女性医師が聴取に来た。暫くして診察室に通された。今度は二人の女性医師で、再び症状の聞き取りから、骨折や脱臼の可能性があると、レントゲンを撮るために一階へ。
 結果は右肩の脱臼。骨折では無くほっとしたが、直ぐに手術(引っ張って関節を元に戻す)を、かなり痛いので麻酔をして治すと言う。レントゲンと同じ場所へ。「引っ張る治療ですが、駄目な時は切開手術になり、その際関節の骨の一部が欠けてしまう可能性がある。」と先程の女性医師。ヒヤヒヤしながら約30分、手術は成功し、麻酔から目覚めるまで少し時間がかかるので二階で待つように言われた。更に30分位で目を覚まし、右腕の痛みも和らいだそうだ。別の男性医師(担当変更は女性医師より聞いていた)から術後の説明を受けた。関節は一度外れると外れ易くなる事、右腕を固定するバンド(腰痛用のコルセットみたいな物)の使用方法等や痛み止めの事。その医師との話で母の苦しみを理解し申し訳ない気持ちで一杯になった。次回の受診日時を決め、診察室を出た。一階で支払いを済ませ、薬を買い、車椅子を返却して病院を後にした。一人の患者にどれだけの医師が関わって治療して頂いたのか、心より感謝申し上げます!
 13時過ぎ帰宅するなり、母は「今日はすみませんでした」と言った。普段とは違う様子に驚き、「ふん。」としか言えなかった。勿論出席予定の打合せをいくつかキャンセルしたからだが、素直な自分なら「いや、こっちこそ痛いのをずっと我慢させてしまい、申し訳ありませんでした」だ。
 その日は久し振りに皿洗いをやった。翌日母はいつものようにおにぎりを作り送り出してくれた(涙)。